人間として生きていれば、楽しくてうれしい出来事ばかりではなく、むしろモヤモヤやイライラを日々やり過ごすことにエネルギーを消耗するものです。それでも、普段はそれをすっかり忘れて元気に生きていけるのが心身ともに健康な証拠です。
しかし、忘れることができずにその嫌な気持ちに囚われて、眠れない、家事や仕事に集中できないなど、学業や仕事、生活に支障をきたしている人が多いのも事実です。
気持ちを切り替えろと言葉でいうのは簡単ですが、うまくいかずに困っている人もいるでしょう。嫌なことを引きずらず、忘れる方法はあるのでしょうか。
効果なし?嫌なことを忘れるいつもの方法
嫌なことがあったとき、みなさんは忘れるためにどんなことをしますか。よく次のようなアドバイスを受けますが、効果があると感じた人も、これでは難しいと感じた人もどちらもいるでしょう。
- がまんする
- 時か解決してくれるのをひたすら待つ
- 別のことに集中する
- なかったこと、見なかったことにする
嫌なことも含め、自分の身に起こったことはなかったことにはできません。忘れよう、なかったことにしてしまおうと努力しても、あるときふとよみがえったその記憶でしばらく嫌な気持ちに振り回されたり、囚われてしまうことだってあるのです。また、放置すればするほど、嫌な気持ちが大きく膨らんでしまっていることに気づいてしまうこともあるでしょう。
ですから、嫌なことをそんなことがなかったように扱うことはお勧めしません。自分の身に起こった嫌な出来事をスル―せずに受け止めた上で、嫌な気持ちを扱って昇華させる技を身につける方法をいっしょに考えます。
嫌なことが頭から離れないのはなぜ?-嫌なことを引きずるメカニズム
嫌なことが消えてくれない理由は、脳科学や心理学の分野でも追及されています。そして、嫌なことを引きずる体質は、時間はかかりますが改善しくことが可能だと考えられています。具体的には以下のようなメカニズムについて理解し、対策を考えることが大事なのです。
潜在意識は嫌な出来事や気持ちを記憶する
人の意識は「潜在意識」と「顕在意識」の二つの領域からなります。「顕在意識」は思考や判断に関わる領域で、「潜在意識」は無意識の領域です。顕在意識は自分でコントロールできますが、潜在意識はコントロールできません。
もう一つ重要な役割を果たしているのが「自我」で、「自我」は「顕在意識」で考えたことのうち、「潜在意識」に入れてもよいものを選別します。この時「自我」は、過去の記憶と同質なものを積極的に選び、新しいものや異質なものは排除する方向に働きます。
つまり、過去に嫌なことを引きずってネガティブ思考が定着していると、「自我」は嫌な記憶に関わることを積極的に「潜在意識」に入れていきます。「自我」には善悪の区別をつけることはできません。こうしてみると「自我」の働きが恨めしく思えますが、同質の情報を集めて蓄積することで「自分らしさ」を形成することも「自我」の大切な役割なのです。
「自我」も「潜在意識」もその機能を理解するかしないか、うまく使うか使えないかで、味方にもなるしマイナスにも働くのです。
扱わないと嫌な気持ちを引きずる負の連鎖を起こす
嫌な出来事やその時の気持ちを放置して扱わないと、イライラやモヤモヤを引きずって、それが「潜在意識」に定着してしまいます。
嫌な出来事は扱わないと、一時的に忘れることはできますが、未解決のままで引きずることになります。そして、未解決の複数の嫌なことが、あるきっかけで噴出することがあります。
例えば、いつもは許せる子どものちょっとした悪ふざけに、つい感情的になってしまい大声で叱った時、冷静に考えると別のイライラを子どもにぶつけてしまったなと反省することはないでしょうか。
感情的になってしまったなと思う時、その背景にはたいてい未解決の別の嫌な出来事が隠れています。例えば職場の上司の嫌味、夫婦間の子育てに対する考え方のすれ違いなど、がまんしたり見ないふりをしてきたことが別のイライラに反応して出てくるのです。
1つ1つを扱って消化できていれば、落ち着いて子どもに対する対応に集中できたはずですが、ため込んだいくつかの嫌な出来事が負の連鎖を呼び起こすのです。
このことからもわかるように、嫌なことは忘れたつもりでも潜在意識にはしっかり記憶されています。そして同じような怒りに反応して鎖のようにずるずる連なって出てきては、嫌な出来事を無駄に大きくしてしまうことがあるのです。
嫌なことを忘れやすくなる体質づくりの方法
これまでのことからもわかるように、嫌なことは放置せず、すぐに解決できなかったとしても扱ったり加工したりすることが大事です。しかし、たいていの人はそれに慣れておらず、また習慣化されていません。
体と同じで体質改善には時間もかかりますが、取り組むことで確実に嫌なことを忘れることができやすくなります。1つ1つ試してみましょう。
嫌なことをため込んできた自分を認める
まずはここから始めましょう。嫌なことをため込む体質だった自分を受け入れることが、改善に向かう第一歩です。
嫌なことが起こった時の気持ちを受け止める
多くの人は嫌なことに伴う感情-怒り、恨み、落ち込みなどを無視しがちですが、気づかないとそれを無意識にため込んでしまうことになります。
嫌なことがあってなんだかモヤモヤするときは、自問自答を繰り返し、その気持ちを言葉にして確認しましょう。
なぜ自分はモヤモヤしているのか。
何をがまんしているのだろうか。
どうすればそれを解消することができるだろうか。
うまく言葉にできなくても、モヤモヤは「早くこの出来事を扱って、嫌な気持ちが膨れ上がらないうちに解消しましょう」という無意識からのメッセージだと思いましょう。
体や心の緊張をほぐす
怒りや恨み、落ち込みといった感情が湧くと、頭で理解するより早く体が反応しています。目が吊り上がったり、脈が速くなったり、汗が出たり、食欲がなくなったりします。感情に蓋をすることに慣れ、自分の感情に気づきにくい人は、この素早い体の反応を手掛かりにすれば、自分の気持ちに気づきやすくなります。
そして、体と心の緊張に気づいたときは、無意識から「早く解決してね」というメッセンジャーとして働いてくれたことに感謝し、自分なりの方法で体と心をいたわり、ほぐすようにしましょう。
緊張した体と心をいたわる何よりの方法は、嫌な出来事をきちんと扱うことです。応急処置で終わらずに、また応急処置後に再び放置したりせず、できるだけ早く対策をとりましょう。
嫌なこととの向き合い方を変える
これまでやってきた嫌なことを忘れる方法は、多くは放置かその場しのぎではなかったでしょうか。
そのどちらでもなく、嫌なことを忘れやすくするための体質改善につながる方法を選ぶようにしましょう。
嫌なことに対する解釈を変える
嫌なことが起こると、余裕がなくなり、その出来事の負の側面しか見えないことがよくあります。
例えば上司に小さなミスを立て続けに指摘されたとします。通常ならばその時に感じるのは理不尽な気持ちでしょう。しかし、出来事にはいろんな側面があり、解釈の仕方次第ではプラスの側面に光を当てることができます。
「今さら質問しにくいわからないことがたくさんあったから、この機会に指摘され修正できてよかった」と思えたならば、その出来事は単なる嫌なことではなく、未来につながるポジティブな出来事として記憶されることになるのです。
このように、嫌なことが起こっても、プラスの解釈を追加する習慣をつけることで、潜在意識にポジティブな情報が刻まれやすくなり、続けていくことでネガティブ体質を変えることにつながっていくのです。
抽象度を上げて見る
嫌な出来事にいつも正面からぶつかっていては、エネルギーを消耗して心がすり減ってしまいます。
そんな時は、起こったことについて、抽象度を上げてみましょう。抽象度を上げるとは、いつも正面から眺めていることを、少し高い位置から捉え直したり、より高次の考え方で解釈しなおすことを指します。
例えばいつも自分の失敗を他人のせいにする同僚がいたとします。それが自分に向けられた時、悔しくて、イライラして、仕事や家事が手につかない気持ちになったとします。
そんな時はきっと、どうにかこの人に反省をさせたい、わからせたいと躍起になってしまいがちですが、少し心を落ち着けて高次の視点から眺めてみましょう。
なぜその人は自分の失敗を認められず人のせいにしなくてはならないのでしょうか。それはその人が未熟で他の術を知らない子どもだからです。そのように考えると、嫌な気持ちがスーッと引き、むしろその人や、その人に同調していた人の状況に同情する余裕が生まれさえすることもあります。
また、そうすることで、その人をどうにか懲らしめたいという拙い解決策ではなく、別の、より抽象度の高い解決方法を考えることにもつながります。
テクニックとしては、紙に書くことで抽象化が早まると言われています。忘れてしまいたいような嫌なことを経験したら、嫌な気持ちを頭の中に長時間放置するのではなく、さっと紙に書きだして抽象度を上げる癖をつけましょう。
自分の責任で改善できることを考える
誰でも、嫌なことと自分を関連付けたくないために、できるだけ他人の責任にしてしまいたいと思うものです。しかし、この扱い方にはデメリットもあります。
嫌なことを他人の責任にばかりしていると、いつまでも「人や、人が起こす嫌なできごとに振り回されている」という感覚から抜けることができないのです。
その感覚から自由になるためにも、嫌なできごとが起こったときには自分にも責任がないか、自分の責任の範囲で改善できることはないかと考える習慣を持ちましょう。
先ほどの未熟なゆえに失敗を人に押し付けてしまう同僚の件で言えば、ミスの多い同僚が1人で仕事を抱えんでしまうのは自分も含め周りの人間とのチームワークが取れていないことも一つの要因と考えられます。その対策として、書類作成の際は複数名でチェックしあう体制を作ることを提案すれば、同僚のミスも減り、自分も嫌な思いをすることが減ります。
なぜ、人の失敗まで自分の責任にせねばならないのかと思われるかもしれませんが、そのような成熟した人間としての考え方を身につけることが、嫌な出来事を引き寄せない体質を作りやすくするのです。
まとめ
嫌なことを見なかったふりや放置するだけでは忘れることができず、むしろ無意識の領域に蓄積されていきます。まずは起こってしまった嫌な出来事を受け入れることから始めましょう。
けれどそれに長々と固執することなく、さっと自分なりの解釈や意味づけをすることで、潜在意識を味方につけ、嫌なことを忘れやすいポジティブ体質を作ることができます。上記を参考に、焦らずじっくり取り組んでみてください。