ほとんどの学校や職場では、同じフロアや室内で多くの人が一斉に勉強や仕事をするスタイルが一般的です。そのため、仕事や勉強の仕方を比べられて辟易している人もいるのではないでしょうか。
一般的に作業に集中できる時間が長い人は「まじめ」で「やる気がある」と総じてとらえられがちです。その反対で、集中時間が短いため、「しょっちゅう休憩してサボっている」、「やる気がない」と誤解されてしまう人もいます。
けれど、その評価の仕方、ちょっと偏っていませんか。デスクに座っている時間が長いからといって仕事がはかどっていると一概には言えませんし、集中時間は短くて休憩は多いけれどサクサクと成果を達成していく人もいるでしょう。
集中力のある/なしという単純な分け方では、大半の人が「集中力がない人」に選別されてしまって当然です。集中の仕方をもう少し幅を広げて眺めてみましょう。
あなたはどのタイプ?4つの集中
世間一般で集中力があると捉えられているのは、実は様々にある集中形態の内の1つにすぎません。スポーツの世界でも、試合中によく「集中しろ」と怒号が飛び交う場面を見かけますが、競技中には1人の選手が実に様々な局面を乗り越えるために、様々な集中力を使いこなしています。
アメリカの臨床心理学者、R.ナイデファーは、それらを4つの注意(集中)として整理し、提唱しています。ナイデファーは「注意の向きが内に向かうか/外に向かうか」、「注意の範囲が狭いか/広いか」に注目し、それらを組み合わせて注意(集中)を4通りのパターンに分けています。
内に向かう注意とは、自分の心理や内面など、自分の内側にあるものに目を向けることを指します。外に向かう注意とは、自分が置かれた環境や状況など、自分の外側にあるものに目を向けることを指します。
4つの集中力
内向き×狭い集中
一般的に集中力と呼ばれているものです。1つのことに意識を集中させたり、細かい作業に没頭するときに使われます。スポーツではサーブの前に精神統一をしたり、ボールに意識を集めたり、自分の身体感覚を確かめたりする際に使います。仕事では単純作業やデータ入力、プログラミング、プレゼンの前に意識を集中したりする際にはこのタイプの集中力を発揮しています。
内向き×広い集中
内向きでも、自分の外部のより広い対象に注意を向ける場合は、この集中力を要します。スポーツでは頭の中でシミュレーションを重ねながら戦略やプランを立てたりする際に使います。ビジネスの場面でも、対象を分析しながらプロジェクトの企画を練ったり、計画や戦略を立てることが得意な人は、このタイプの集中力を発揮できる人です。
外向き×狭い集中
外側の特定の何かに注意を向けることを指します。PK戦のように狙った場所にショットを決めたり、1人の対戦相手の動きを追う際に必要とされる集中力です。ビジネスでも特定のクライアントとの商談、会議、上司との打ち合わせなどで発揮されます。
外向き×広い集中
スポーツではゲームの全体像や状況把握など、自分の外側で起きていることを察知して対応するために必要な集中力です。司令塔やムードメーカーにはこの集中力が備わっていると言えるでしょう。ビジネスではインストラクターのような職業の人、プレゼンテーションなどの場面で発揮されます。例えば会場全体の雰囲気や聴衆の疲れ具合を見て話す内容を工夫できる人は、この集中力に長けていると言えます。
まずは自分のパターン、得意/苦手を知ろう
いかがでしたか。4つの集中のタイプを読んで、自分の得意な集中、苦手な集中、自分の仕事に必要な集中のパターンが見えたのではないでしょうか。特に「自分には集中力がない」と自信を無くしていた人にも、意外と自分も集中力があるのだと気づいていただけたのではないでしょうか。
まずは、自分の得意/苦手なパターンを把握することから始めましょう。
4つの集中の切り替え上手になろう
与えられた仕事で必要とされる集中のパターンと、自分が得意とする集中のパターンが一致しないこともあるでしょう。また、仕事には自分に任された専門的な仕事だけではなく、電話応対から接客まで幅広い業務があるため、どの集中力も必要とされるものです。アスリートも同様です。
得意/苦手で振り分けてしまうより、4つをうまく切り替えて集中を保てるように、意識化してみてはいかがでしょうか。
いろんな業務をこなして混乱しがちな人も、「電話応対だから相手の話に集中しよう(外向き×狭い集中)」、「電話が終わって企画書の作成に戻るから分析に集中しよう(内向き×広い集中)」とスイッチを切り替えるように集中力も切り替えてみましょう。
得意/苦手はあってもどちらも大事な仕事、企画書を書く時間を電話で分断されても、うまく切り替えることができれば、それぞれの仕事の質は高まります。
4つの集中―切り替え上手になるためのコツ
今、必要なタイプの集中を適切に選ぶ
細かな作業に集中するのは得意だけれど、その仕事を後輩に教えるのは苦手といったことがよくあります。前者に必要なのは狭く内向きな集中力ですが、後者に必要なのは狭く外向きな集中力です。
指導の際には後輩にも注意を向けなければならないのに、いつも通り作業や機器に集中していては、指導はうまくいかず、後輩はいつまでも育ちません。
得意なことだけに固執せず、今、この場ではどの集中力が必要かを自分に問い、適切な集中力を選んで実践できるようになることが大事です。
異なる集中の同時進行は避ける
一般的にも、一度に複数のことを同時進行すると、1つ1つの精度や質は落ちます。4つの集中も、それぞれに注意力と集中力が必要なため、同時進行すると混乱が起こります。
「今は何に集中している時間か」、「今はどのタイプの集中が必要か」を常に意識することで、混乱を避けましょう。
また、どんなに得意でも1つの集中をずっと続けると疲れます。外向きの集中の後には内向きの集中を入れるなど、自分にとってやりやすいように組み立ててみましょう。
1つ1つの集中時間の質を高める
集中時間が長いということは長所の1つではありますが、ただ長ければよいというわけではありません。集中時間は短くても、短いなりにその時間や仕事の質を高く維持することが大事です。
まずは、自分の集中力が続く時間を把握しましょう。10分でも20分でもよいのです。
集中時間が短い人はやるべきことを細分化して、1つずつクリアしていきましょう。それぞれの短いけれど充実した時間を積み上げた結果、大きな仕事をやり遂げられるのです。
自己評価で達成感を感じる
短い集中時間でもその時間が充実し、成果が見えると達成感を感じられるものです。そして、この達成感がご褒美となって、やる気を持続させることができます。
集中時間の長さは人それぞれ、集中の質も1人1人違います。ですから、他人の評価ではなく、自分軸で評価することが大事です。「10分でこれだけできた」、「2つの集中力をうまく切り替えて、それぞれの仕事を見事にこなした」というように、こまめに達成感を感じて脳を喜ばせましょう。
メリハリをつけ、インターバル(間隔)を充実させる
それぞれの集中力を発揮している時間もですが、うまく切り替えをするためには、インターバルを充実させることも大事なことです。短くても集中時間の質が高ければ、体も疲れます。リラックス効果のあることを取り入れることで、次のタスクへの集中力も高まります。
ただ、インターバルも長くとり過ぎたり、ダラダラ過ごすと逆効果になります。短くても集中力を回復する効果のあるものをいくつか挙げてみます。
・自然の音を聞く
好きなジャンルの音楽やメッセージ性の高い歌を聴くと、その内容に集中力が傾きます。少しだけ外に出て風の音や鳥の声を聴く、それができない環境の人は自然音のCDなどを活用するとよいでしょう。
・腹式呼吸
深呼吸、中でも腹式呼吸は体の緊張を緩め、リラックス効果が高いことで知られています。場所を選ばず、机の前に座っていてもできるので、おすすめです。
・1分睡眠
疲れて眠気が襲ってきたときは、集中を維持するためにも無理せず休息をとることが大事です。ただ、職場では疲れたからと言って机にうつぶせて寝にくいですし、ダラダラと寝てしまうとかえって疲れてしまうこともあります。
そんな時におすすめしたいのが1分睡眠です。横になるとそのまま長時間寝てしまうので、椅子に深く座った状態で目を閉じます。頭の中にある先ほどまで取り組んでいた仕事の情報を消し、白紙にするようなイメージで1分間目を閉じます。物足りない気がするかもしれませんが、慣れてくると1分でも頭がすっきりして、気持ちを切り替えることができます。
1つタスクが終わるごとに頭も机もリセットを
勉強でも仕事でも、「ながら」は集中力を妨げます。基本的には1つのタスクが終わるごとに作業用具を片付け、デスク上やパソコン上の書類を閉じて、脳内も、机の上も、パソコンのデスクトップ上もすっきりリセットする習慣をつけましょう。
1日の終わりにもきちんとリセットできれば、家に帰っても仕事を引きずらず、次の日に机が散らかった状態で集中や意欲の低下を起こすことなく、「新しい1日」を始められます。
苦手でも得意でも、4つの集中力を伸ばす
スポーツでもビジネスでも、自分の得意な仕事だけをこなしている人はめったにおらず、誰もが得意なことも不得意なこともこなさねばなりません。
集中力の切り替え上手になるためには、得意な集中力を活かしつつ、苦手な分野の集中も克服したり、伸ばすことが大事です。
繰り返しますが、集中力は時間の長さが問題ではありません。ですから、苦手なことも短い時間から始めればよいのです。自分とはタイプの違う、お手本となる人が周りにもいるはずです。その人の集中の仕方をよく観察し、少しずつ取り入れてみましょう。
まとめ
自分には集中力がないと思っていたけれど、得意な集中のタイプがあることに気づいていただけましたか。得意な集中を活かしつつ、苦手な集中も伸ばし、4つの集中をうまく切り替えていきましょう。