自分のことを一番よく知っているのは自分のはず、多くの人はそれが当たり前だと思っています。ところが、そう思い込んでいる人でさえ、自分を見失ってしまうことはあります。
それなのに、学校や社会では「あなたは何者だ」と突き付けられ、「こうあるべきだ」という周囲の期待が大きすぎて、戸惑うことも多いでしょう。
自分がわからないと不安や焦りを感じてこのサイトを訪れてくださった方は、そのような社会からの問いかけや周囲の期待に誠実であろうとする反面、違和感にもがいていらっしゃるのではないでしょうか。
周りの期待に応えることよりも、違和感も自分を理解する大事な手がかりとして、今の自分を受け止めることに集中してみましょう。
他人軸の自分に慣れてしまっていませんか
「らしさ」の呪縛ー役割期待と私らしさのギャップ
生まれた時から死に至るまで、人は様々な役割を期待されて育ちます。男らしく、女らしく、子どもらしく、お兄ちゃんらしく、お姉ちゃんらしく、高校生らしく、お父さんらしく、お母さんらしく。〇〇らしくあってほしいという家族や社会の期待を一身に受けて、時にはその期待通りに振る舞い、ある時には「そんなの自分じゃない」とはねつけてみたりします。
大方は、社会の役割期待に乗っかったほうが周りとの軋轢を感じずにすむので、それに従い、慣れていきます。しかし、時折まるでサイズも趣味も合わない服を無理やり着ているような心地悪さを感じて、脱ぎ捨ててしまいたくなることはないでしょうか。
けれど、着心地が悪くても長年着続けたものを脱いだ後、いったい何を着ればいいのかわからないように、「らしさ」を脱ぎ捨てた後の自分が何を望んでいるのか、わからなくなることもあるでしょう。
「こうあらねばならない」-思い込みの強さ
周囲の期待と内面との折り合いをつけることに必死で、自分の本心がおざなりになってしまっていませんか。期待に沿えない自分は嫌われるのではないか、
そんな恐れを感じて、本心を表せなくなっていませんか。
本心を出せない人の多くにありがちな思い込みがあります。「いい人でなければならない」、「みんなに好かれる人でなければならない」、どちらも他人の期待を軸とした自分像であり思い込みです。
そういう自分を演じ続けている間に、自分の本心を見失ってしまうのではないでしょうか。
よくわからない自分と向き合うのがしんどい
自分の本心がわからなくても、何を望んでいるかわからなくても、自分とのつきあいをやめることはできません。わかっているはずの自分を見失ってしまっても、日々、何者かでなければならないという容赦ない期待や要請に応えなければなりません。
時折、「楽しい」、「これをやってみたい」という感情のボリュームが上がることがあるけれど、そういうときでも周りを気にして引っ込む自分に戸惑いや憤りを感じることはないでしょうか。そういう自分を一番間近に感じて、しんどくなっていないでしょうか。
自分軸を取り戻すためにできること
他人軸で生きることに慣れきってしまうと、それをやめようと思っても、時間がかかります。しかし、この記事にたどり着いた方は、自分をわかりたい、他人軸で生きるのではなく、自分軸で生きたいと願っている人だと思います。
「自分を見つめる」なんて、ちょっと気恥しく感じるかもしれません。しかし、これらは自分との関係、人や社会の関係をよりよく築くためのスキル=技術です。個性や性格とは無関係に、すべての人に取り組んでほしい課題です。性格、メンタルの強い弱いなどは関係ないので気にせずに、ちょっとしたエクササイズのつもりで取り組んでみてください。
複雑な自分を複雑なまま受け止める
自分の本心に向き合おうとすると、自分の中の矛盾や葛藤に気づいて戸惑うこともあるでしょう。しかし、それはごく自然なことです。歴史上の偉業を遂げた人物が善人とは限りませんし、身近な人間をいい人/悪い人で簡単に仕分けることもできません。程度の差や個人差はあるけれど、誰にも成熟した部分も未熟な部分も、よいところも改善が必要なところもあるのです。
矛盾を感じてもそれも自分、ねじ曲げたり、「こうあらねばならない自分像」に無理にはめ込む必要はないのです。それでは振り出しに戻ってしまいます。「自分にはこんな一面もあるのか」、と気楽に受け止めましょう。大前提として、複雑な自分を複雑なまま受け入れることが大事なのです。
自分をふりかえる時間を持つ
人間は日々様々な出来事を体験し、様々な感情が動きます。しかし、慌ただしい日常生活では、意識しないとそれを味わう余裕がありません。多くの人は感情を振り返る時間を持てないために、感情を扱うことに慣れていません。
一日のうちでリラックスできる時間を選び、少しだけでも自分をふりかえる時間を作りましょう。
自分の現状を受け入れる
「こうあらねばならない」という思い込みが強いと、自分のマイナス面を見つめたり、受け入れるのはしんどいですよね。それなのに、自分に対してはマイナス面ばかりほじくってしまいがちですが、他人に対してはそんなことしませんよね。これは自分に対してフェアな態度とは言えません。
「こうあるべき」という思い込みを脱ぎ去るためにも、自分のいいところも嫌なところも、両方挙げてみましょう。慣れないといいところを出すのは気恥しいでしょうが、大事な作業なので、客観的に自分を見つめなおしてみましょう。
自分のいいところが見つからない、それも発見です。その場合は嫌なところを見て、言い換えをしてみます。例えば「優柔不断→気が長くて待ち上手」、「短気→決断力が早い」といったように長所と短所は紙一重なのです。自分に対する解釈が厳しいか甘いかも、発見の一つです。
変化する自分を受け入れる
変わらないものなどありません。人間も同じ、その年齢や発達段階に合った課題をクリアして成長しています。親や身近な人の影響や期待が強かった時期の自分を脱ぎ去ることは悪いことでなく、むしろ自然なことです。
変わることは、これまでの自分や周囲を裏切ることとは違います。変化は成長です。変化する自分をしっかり受け止めましょう。
自分の気持ちを受け止める
他人軸で生きているときは、自分の気持ちを味わったり伝えたりせず、押し殺してしまう傾向があります。そのためか、「今、どんな気持ち?」という質問にも「別に」、「普通だよ」と答えるのが当たり前にようになってしまいます。
「別に」、「普通」で表現していることをもっと掘り下げてみましょう。
感情は自分を知るための最良の手がかりですが、それについて考えたり、お互いに受け止めたりする機会は日常からどんどん減ってきているように感じます。
自他の気持ちを受け止めることは、今や日常生活で自然に身につくことではなく、トレーニングが必要なことになってしまったのかもしれません。気長に続けてみましょう。
自問自答で気持ちの表現の幅を広げる
「別に」、「普通」をやめてみても、感情表現の言葉を私たちは意外と知りません。しかし、感情を表現する言葉のバリエーションは数えきれないくらいあるのです。
「楽しい」1つをとってみても、ゲームをするときの刺激的な楽しさと、遠足前のワクワクするような楽しさと、人とコミュニケーションできた時の楽しさと、何かを達成した時の楽しさは少しずつ違います。「具体的には?」、「例えばどんな感じ?」、「もう少し詳しく教えて」と自問自答を繰り返すことで、より深い感情を引き出すことが出います。
慣れてきたら人との会話の中でも感情を表す言葉をいろいろ使ってみましょう。
感情を動かしてみる
他人軸で考えることに慣れてしまうと、感情に蓋をする癖がつき、感情の波を感じにくくなってしまう傾向があります。
もし、自分は感情の波が動きにくいと感じたなら、感情を動かしてみましょう。難しいことはありません。体を動かしたり、何かを体験すると、それにつられて感情が動きやすくなります。
自分をふりかえる場所は、安全で安心な場所であれば室内でなくてかまいません。特別に時間をとってもよいですし、気分転換のちょっとした時間でもよいのです。歩いたり走ったり、食べたり飲んだり、読んだり眺めたりして、そんなときの感情の動き方に注目してみましょう。
体の声に耳を傾ける
それでも、多くの人は自分の感情を見過ごしがちです。とくに怒りや悲しみなどの感情には蓋をする傾向があるため、怒りや悲しみがたまって大きくなりすぎてから気づくこともしばしばです。
そんなときも、体は素早く正直に気持ちに反応します。悲しいときはいくら蓋をしても目の奥がツンとして涙が溢れます。怒ったときは心臓がバクバクしたり、眉間にしわが寄ったり、膝が震えたりします。
自分の気持ちがわかりにくいときは、体の反応も自分の気持ちを知るための良い手がかりとなります。
気持ちを発散する―つぶやき力を高める
感情に善し悪しはつけられません。楽しい気持ちや喜びの気持ちはたいていの人がウェルカムですが、怒りや悲しみには蓋をしがちです。しかしこれらの感情も、自分が何に違和感を感じるのか、どんな価値観を持っているのかを教えてくれる、大事な感情です。
どんな感情も押し殺したりせず、感じた気持ちは外に発散するように心がけてみましょう。難しいことをしゃべる必要はありません。単語でつぶやくだけでも十分よい発散になるのです。
気持ちを記録するジャーナルをつける
とはいえ、いきなり人前で「ムカッとした」、「イラっとした」などとつぶやくことに抵抗や怖さを感じることもあるでしょう。そんな場合は、まずノートにメモするだけでも、感情を外に開放したことになるのでやってみましょう。システム手帳などのスケジュールの片隅を使うと、いつ、どこで、何をしているときにどんな感情が動くのかが見えやすいのでおすすめです。
声に出してつぶやいてみる
慣れてきたら、口に出してつぶやいてみましょう。人がいないところでなら、気兼ねの必要もありません。声に出すことは、自分の感情をスルーせずに受け止めたことになります。とくに違和感、怒りの感情などは、問題の芽が小さいうちに認識して対応するための大事なサインです。
問題の芽が小さいうちは、つぶやくだけでも気持ちがスッキリします。
信頼のおける人の前でつぶやいてみる
さらに慣れてきたら、安心感と信頼を感じる友人や家族の前でもつぶやいてみましょう。「ムカついた~」、「イラっとした」と本音をつぶやいても嫌な顔をせず、見過ごさずに受け止めてくれる相手でいれば、もっと今の素の自分に自信が持てるようになるでしょう。
まとめ
自分のことがわからずに不安になったり焦ったりする心の底には、自分をわかりたい、もっと自分を好きになりたいという前向きな気持ちがあります。
長い時間をかけて自分のことが見えなくなったり、気持ちを押し殺してきた場合は、それらを取り戻すのにも時間がかかります。
しかし、不安や焦りを感じている時点で、すでに自分の軸を取り戻すためのスタートは切っているのです。変化し続ける自分を理解するのは一生の仕事です。焦らず、じっくりと、日々の生活の中で取り組んでいきましょう。