「最近やる気が出ない」、「モチベーションが上がらない」、「うつっぽい」、自分や身の回りの人がそんな症状を訴えた経験はないでしょうか。たいていは普通にご飯も食べて、夜も眠り、趣味や遊びも楽しんでいるように見えます。漠然とした不安や焦りはあるものの、そこまで差し迫って困っているわけでもなさそうです。
しかし、バリバリ動けているときには無気力な人を理解できなかったけれど、自分も仕事で燃え尽きて初めて無気力な人の心理がわかったという人もいらっしゃるでしょう。
気力が湧かないだけだからと放置している人もいるでしょうが、この無気力状態を長く続けることにはリスクも伴います。無気力でやるべきことができない自分を変えるために必要な情報をご紹介します。
無気力症候群とは
大学生が陥りやすい「5月病」、社会人が経験する「燃え尽き症候群」、それらと似た「やる気が出ない」状態は「無気力症候群(アパシーシンドローム)」と呼ばれています。
これまでも、そして今でもやる気が出せないのは本人の性格や特性として片づけられがちでしたが、そうではなく、誰でも陥る可能性があるものなのです。また、無気力症候群は長引くとうつ病の関連やつながりも指摘されています。
「やるべきこと」にやる気が起こらない状態
やる気が起こらないといっても、無気力症候群はすべてのことに無気力になるわけではありません。「やるべきこと」、つまり学生だったら学業、社会人だったら仕事、パパやママなら子育ての場面でやる気が出せなくなるからやっかいなのです。
授業には出なかったり、仕事では時間をやり過ごすように無気力だけれど、趣味やサークル活動、飲み会などには積極的に参加したりします。そのため、周囲からは「怠けているだけ」、「甘えている」といった誤解も受けやすく、本人も後ろめたさを感じることがあります。
そして、「5月病」が大学受験を乗り越えた後に起こるように、「燃え尽き症候群」が一生懸命仕事で目標を達成しようと努力してきた人に起こることからわかるように、無気力に陥りやすい人はもともと努力ができるがんばり屋さんが多いのです。
無気力に陥ってしまう原因と特徴タイプ
無気力に陥ってしまう原因は人によって様々で、これと1つの原因を特定することも難しいです。しかし、個人的な事情は違っても、共通する傾向はあります。
性格はまじめな努力家が多い
自分の力ではどうすることもできないことが増えてくとやる気(意欲)を失い、「どうせ私の力では何も変わらない」、「やっても無駄だ」、「自分の手には負えない」という気持ちを抱きます。
そのように、何かがうまいかない原因を自分の無力さに求め、失敗や落胆によって強いストレスを感じることを回避したり防御することが無気力につながっていくと考えられています。このことからもわかるように、無気力に陥りがちな人は、もともとの性格はまじめな努力家が多い のです。
完璧主義者も無気力になりやすい
完璧主義者も無気力になりやすい傾向があります。「こうあるべきだ」と強い意志を持つことはすばらしいですが、完璧でなければ失敗だと考えて自分を追い込みがちです。
また、完璧主義者は自分にも厳しいため、「みんなに愛されるいい人」や「周りの期待を裏切らない人」であろうとします。が、それによって素の自分の感情を捉えにくくなったり、周りの評価を気にしすぎるあまりストレスをため込んでしまうこともあるのです。
無気力になりやすい人の傾向を挙げてみましたが、ストレス要因の多い現代社会では無気力症候群は他人ごとではなく、誰にでも起こる可能性があると考えておいたほうがよいでしょう。
無気力とうつ病との関連性は?
無気力の状態を「うつっぽい」とよく言いますが、実際に無気力とうつ病はよく混同されたり、関連性が指摘されたりします。また、無気力がうつ病になる兆候ともよく言われます。
無気力とうつ病は自分がコントロールできないことが積み重なるという点は共通ですが、大きな違いはそのつらさの認識の仕方にあります。
無気力症候群はすべてのことに無気力なのではなく、自分が本来やるべきことにやる気が出ないので、それ以外の活動や人間関係ではそこそこ楽しみや喜び、達成感も感じます。
そのため、自分でも困っていると実感しにくいのです。日常的な憂鬱や、見通しが持てずに絶望感を感じるうつ病のつらさとは異なっているため、診断や治療につながりにくく、対策が遅れてしまいがちです。周りからもつらさが見えにくいため「やる気がない」、「できるのにがんばらない」、「さぼっている」などと思われがちです。
ただ、わかりづらくても「このままではいけない」という漠然とした不安や焦りを抱いていることも多く、周囲からの評価を真に受けてますます自信や意欲の低下につながることもよくあります。放置すればうつ病などの心の病、不登校や欠勤、生活習慣病などにつながるリスクも確かにあるのです。
無気力症候群は早期対策が大事
無気力症候群は自分も周囲も手立ての必要性を認識しづらいため、対策が遅れがちです。また、「弱い心を鍛えろ」、「がんばれ」といった精神論的なアドバイスに傾きがちですが、それができないからつらくなってしまうのです。
最近では専門家が監修した無気力症候群やうつ病のためのチェックリストなども入手しやすくなりました。そのため以前よりも早くに問題を認識できるようになってきました。それでも精神的なつらさや症状に対する理解が浸透していない日本の社会では、「がまんが足りない」、「心が弱いからだ」といった羞恥心が勝ってしまい、対策に踏み切れなかったりすることもあるでしょう。
やる気が出せずに不登校や欠勤につながると、もはや自分1人で手に負える問題ではなくなるため、ますます自分の手で人生をコントロールできるという自信を失いかねません。そこまで行く前に、「ちょっと落ち込んだ」程度でこまめに自分をケアし、回復しやすい体質を作っておくことが無気力克服のカギなのです。
無気力の克服―予防と対策のポイントは?
無気力状態の源には、物事に対して「自分の力では手に負えない」という無力感があると述べましたが、では無気力状態を脱出するためにはどうすればよいのでしょうか。
無力感を乗り越え、やる気と自信を取り戻すためにできることは、実はとてもシンプルなことばかりです。
ストレスの早期発見のコツ―こまめに感情に向き合う
日常のモヤモヤやイライラ、できれば感じたくないものです。小さなモヤモヤはなかったことにしてスルーしている、という人も多いのではないでしょうか。
けれど、実はこのモヤモヤやイライラはストレスをため込まないための大事なサインなのです。無力さややる気のない深刻な状態に陥る前に、この段階で「自分は何にモヤっとしているのか」を紐解いていくことで、問題の芽が小さいうちに対処して潰せるようになるのです。
小さな傷でも痛みを感じるのは「傷が大きくなる前に何とかしようね」という体からのサインです。それと同じで、モヤモヤやイライラの感情も「自分にとって大事な問題だから、こじれる前に解決しようよ」というサインです。無視せず、向き合う癖をつけましょう。
ストレスをため込んでから発散しようとしても、逆効果を招くことがあります。例えば、ストレス解消行動としてよく挙げられるショッピングですが、強いストレスを感じている状態で行って、好きでもない服に散財してしまったというケースはたくさんあります。ストレスの早期対応のためにも、それを教えてくれる感情とはうまくつきあいたいものです。
自分でコントロールできることに集中する
自分でコントロールできないことの代表例としては、自然現象、老化、突発的な事故などがあります。そして、もう1つ、他人をコントロールして変えることもできません。子育て中に赤ちゃんが泣きやまずにイライラするからといって、赤ちゃんを力でねじ伏せて黙らせることはできません。
しかし、自分の気の持ちようや赤ちゃんとの付き合い方を変えることはいくらでもできます。「人は変えられないけれど、自分の行動は自分の責任で変えることができる」のです。
自分の力でコントロールできないことに躍起になっても、当然変えることはできないので、ますます無力感や無気力感を強めてしまいかねません。自分の力や責任の範囲で変えられることに集中し、できることを増やして自信を回復していくことから始めましょう。
やる気は外から植え付けられない―「内発的な動機付け」と「目標設定」
やる気のないとき、外野からの励ましやお叱りは残念ながら薬にはなりません。モチベーションを維持し続けていくためには、「おもしろい」、「自分にもできた」という達成感やそれに伴って湧いてくる感情が一番のご褒美なのです。仕事であれ勉強であれ、この「内発的動機」を高め、人の敷いたレールに乗っているだけだという感覚を少しずつ変えていくことが大切です。
では、自分がやりがいのない仕事や受験勉強をしていると感じている場合はやる気が出なくても仕方がないのでしょうか。特に完璧主義者はそう考えがちですが、答えはNOです。すべての人が天職につけているわけではないはずですが、無気力に陥らずにご機嫌に働き続けている人はたくさんいます。
それは、大きな目標だけではなく、小さな目標をたくさん立てて、1つ1つを達成した喜びを感じているからです。自信は大きな目標を達成した時だけにつくものではなく、日々の小さな積み重ねの中で身につく自信こそ、無気力克服には必要なことなのです。
朝日を浴びて、生活リズムを整える
うつ病の要因として神経伝達物質であるセロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンの減少やバランスの乱れが取り上げられます。例えばセロトニンが不足するとイライラや不安を感じたり、食欲をはじめとした欲求や情動、睡眠等にも影響します。
セロトニンが減少する原因として、生活リズムが不規則でストレスをためやすいライフスタイルとの関連が指摘されています。セロトニンの分泌を増やす方法はいくつかありますが、朝日を浴びる方法は中でも一番取り組みやすい方法です。セロトニンの分泌は目に入る光の量と関係が深く、夜は分泌されにくいため、朝日を浴びることで効果が上がるのです。また、朝日を浴びることで乱れた体内時計や生活リズムの改善にもつながるのでおすすめです。
まとめ
差し迫ったつらさを感じていなかったとしても、無気力症候群の症状を放置すると、うつ病をはじめとした心の病に移行してしまう危険性もあります。気になる方は専門医への相談をおすすめします。
そして、ここで取り上げた予防と対策のポイントはとてもシンプルですが、そのような習慣を持たなかった人が大人になって変えようとしても時間とエネルギーを要します。これらは実は、幼少期から発達段階に応じて身につけておきたいことなのです。大人になってからでは「失敗」と感じることも、子どものうちは初めてなので「失敗しても当たり前」と思えるのです。
大人になってからでは手遅れというわけではありません。いつ始めてもよいのです。自分とは一生のおつきあい、焦らず、長い目でやる気と自信を回復していきましょう。